「原風景」ってなんなん。 風景写真と『マイマイ新子』考

なんか一向に「これだ!」というネタは見つからないが、つらつら書いてみないと何も始まらないので書いてみる。


先日、恵比寿の東京都写真美術館において、「出発―6人のアーティストによる旅」という展示を見た。写真に関しては門外漢なのだけれど、尾仲浩二さんという写真家が日本の地方を旅した時の写真を展示していてふと「原風景」というものについて考えた。その場所に行った事はないのに、何故か懐かしさを感じる写真だったからだ。そもそも原風景ってなんだろう、とちょっと広辞苑とか引いてみる。


げん-ふうけい【原風景】
・・・心象風景のなかで、原体験を想起させるイメージ。


原体験を「想起させる」ということは、過去の経験や住んでいた地そのものでなくとも、その風景そのものが感情のフックになって自分の原体験が呼び起こされればいいわけだ。そうなると、人間は結構適当な生き物だなーということになる。東京生まれの東京育ちが自然豊かな風景を見てノスタルジーを感じる事だってあるだろうし。


そもそも、「原風景」を語る際は国単位とされていることが多いが(日本の原風景、とか良く耳にする)、それぞれの日本人が生活している環境は違うのに、どうしてその風景を共有できているのだろう。そもそもどの程度共有されているのだろう。


それは多分、「みんなそう思ってるっしょ!」と明確に規定できるほど具体的なものではないが、「適当に想起してるだけだろ」と言い切れるほど他人に対して閉鎖的なわけでもないという、物凄く曖昧なイメージ。人々の共感が他人に対してどの程度まで効果を持っているのか、という時に出てくる話と一緒。


そしてこの原風景、おそらく「音=聴覚」や「におい=嗅覚」(というか五感すべて)などもそれに値するものがあるように思う。ほんとに印象論で語らせてもらえば、


視覚>聴覚>嗅覚


の順に他人と共有できる領域が大きい、という印象。印象だけの仮説だと少し分かりにくいので弱々しい根拠を引くとすれば、この領域は人間が外界から情報を得ている量と比例している。つまり、視覚から取り入れる情報は膨大であるがゆえ、「この映像は得てしてこういう意味を指している」というその文化特有の意味付けが成されやすい。(それを巧みに使ったのが最近の「なんか雰囲気カッコいい」的なPVとかの映像だと思うんだけど、これはまた今度にしよう)聴覚にも「懐かしい(と感じる)音」は存在するだろうが恐らく視覚ほど情報の多いものではない。


こんな話をしてて思い出すのが、昔なんかの食品のCMで、「においを視覚でお届けしています」とかいうのがあったが、この意味でも嗅覚に関してはメディアなどで多くの人間に一斉に情報を与えることができないのが、共有する領域の少ない原因にもなるのかな・・・なんて思ったり。しかし一概には言えず。


そしてこの「虚構」、といってもよい「原風景」をひとひねりして描写した工夫に素直に感動できたのが、映画『マイマイ新子と千年の魔法』である。このアニメよかったー。山口県防府市を舞台にした片田舎で、小学生の新子と家族・友人達が織り成す物語(ストーリーはネタばれしそうなので省きます)。この映画は、「日本の地方の古き良き原風景」という「どこにあるかも確認できないのにみんなが思い描くような懐かしい世界観」を作り上げている事に成功しているのだが、そんな『Always 三丁目の夕日』的なノスタルジー映画の主要素とは決定的に違うもう一面を持っている。


それは、新子の豊かな想像力によって創造される千年前の町の様子と、新子が暮らしている現実の生活が渾然一体となってスクリーンに描かれている事で、風景の虚構性が二重性を帯びているということだ。そして、『Always』によって想起されうる「(ありもしない)昔は良かったなー」感情が、『新子』にはなかったように思い、僕が圧倒的に後者を支持するのも、この要素ゆえ。


『Always』はそれら懐かしい物語との間に、現実に存在する「東京タワー」の建設過程のカットを挿入することで、「こんな風景、昔の日本にはあったんだよ」という意味付けがなされる(このタワーのうそ臭さがそのままこの映画の虚構性を物語っているという視点もないわけではないだろうけど)。『新子』は全く逆。千年前の人々の生活と一緒に描かれることで、新子の日常は確実に「映画の中のこと」だと念を押される。


言うなれば、前者は「本物っぽいけど残酷な作り話」であり、後者は「フィクションと分かっているウェルメイドな作り話」だと感じた。



写真展示の話をしてたのに、一気にそれたなー。しかもなんと切れ味の悪い文章!とにかく、写真展示に関しては尾仲さん以外にも百瀬俊哉さんの作品は特に素晴らしかった。あと、同時開催していたブレッソン木村伊兵衛の展示も見てきたのだけど、お互いを撮った写真がとても素敵であった。


マイマイ新子』はホント観てない人は観てください。こんなブログ観てる人5人もいないだろうけど(笑)終始低いアングルが新子と一緒にワクワクドキドキしてるみたいで素晴らしいんだこれが。



今回の文章は難しいこと言っているようで実は回りくどいだけ、という最悪の滑り出しではあるが、とにかく更新したぞー!次回からはもう少しすっきりした文章を書くので、長い目で見てやってくださいな。以上、昨日ゼミの子に連れられてMay'nという女性歌手の武道館LIVEに行ってから、「pink monsoon」という曲をヘビロテしているtty_3でしたー。本当に名曲なんだこれが。アニソンに嫌悪感がある方は、その概念を捨て去って聴いて欲しいんす。では。

なんか、自分が言及した映画・音楽・作品とか勝手にリンク貼られないんかね、そんなにうまいこといかないか。もうちょっと勉強してみます。