「幅」のあるアドバイスの妙 〜みかんを美味しくする魔法の例〜


自分の周囲の人に、「Aすると、Bになるらしいよ。」というアドバイスをして、その人の行動を観察するのが好きだ。但し、Aには、相手の行動の「幅」を許しておくこと。その場でバチッと相手の取る行動が決まってしまっては、その人らしさが見えてこない。(それでも、こちらが思いもしなかった行動に出る人は、若干名いるのだけれど・・・)


例えば、僕が一番よくやるのが、一緒に「みかん」を食べようといている時に、「みかんって、食べる前に少し刺激を与えると、甘くて美味しくなるらしいよ」の一言。この助言に対する相手の行動が、実に多種多様で面白い。ちなみに、この噂は口から出任せではなく、どうやら本当の話らしい。子どもの頃その話を聞いてから、自分では毎度のように実践している。


僕が最初にこの話を聞いた時、みかんをお手玉みたいにして、ポーンポーンと上に放ったのを覚えている。お節介なことに、実家に山と積んであるみかん全てをこれ見よがしに放った。お手玉なんて二つでしか出来ないくせに。そんな話は置いておいて、おそらく「みかん刺激アドバイス」暦に関しては、若くして相当な経験を積んでいる部類に入るであろう僕の経験から、今まで見たことのある行動を分類してみる。


① 一番多いのが、僕と同じお手玉アクションだ(これをお手玉式」命名する)。このタイプの人は、よく言えば素直な人、悪く言えば「普通の人」かもしれない。きっと、他人の主張に流されやすい部分が少なからずあると思う。お手玉式の人と一緒にいると、すこしいたずらしたくなるかもしれない。


② 次に見たのが、軽く揉んでほぐす人(これは「マッサージ式」命名する)。僕の経験では、マッサージ式を披露する人は、マナーのしっかりした年配の方が多いように思う。やはり、「食べ物を投げたりしてはいけません」の厳格なルールに従い、ゆっくりと、しかし確実に、みかんに刺激を与えているのである。マッサージ式の人と一緒にいると、なんだかとても安心する。


③ お調子者の人は、きっとこっちに向かって投げてくるだろう(これを「キャッチボール式」命名する。小学生とかにやらせると、時折「ドッヂボール式」になってしまったりもするが、、、)。大人になってからは、こういう人を見る機会は少ないが、そんな人はきっと、少年のような心を持ちつづけていることだろう。キャッチボール式の人と一緒にいると、賑やかで楽しいけど、いつもこの調子だとちょっと面倒くさい。


④ びっくりしたのが、机の上を転がす人を見た時である(これを「ボーリング式」命名する)。ボーリング式を見たのは僕の長い経験でもたった1人だけであるが、この人はかなりの変わり者だったと思う。みかんの方も、食べられたり、投げられたりはしても、まさか自分が転がされる立場になるとは、思っても見なかったのではないか。ボーリング式の人と一緒にいると、新しい発見が沢山あるかもしれない。


⑤ もっとびっくりしたのが、片手に乗せたみかんをもう一方の手で撫ではじめた人を見た時だ(これを「甘やかし式」命名する)。甘やかし式の人は、きっとほめて伸ばすのが美味いタイプだと思う。その人に子どもができて、あるいは飼っているペットが、いたずらをしてしまった時。びしっと刺激を与えてやらんといかん、とは思いつつも、ついつい甘やかしてしまう。そんな優しい人な気もする。


サンプル数を増やせば、もっと新しいタイプも発見出来るのではないか。想定されるのは、みかんに魅惑的な言葉を投げかけて、精神的に刺激を与えるタイプ、とか。この人はきっと、人を動かすのは、力ではなく意志である、と知っている人、なのかは甚だ疑わしいが、こんな人に出会ってみたいものである。ベンチャー企業の社長や成功者の糟糠の妻とかにいそう。人をmotivateするのがうまい人。


あの子は優しく撫でてくれるかな。あいつはどうせ投げるだろうな。ああ、全国のお茶の間のコタツにご一緒させて欲しい。ついでに夕ご飯もご馳走して欲しい。そして、おなかもいっぱいになった食後、芸人がひな壇に並んだバラエティ番組を放送するテレビを横目に、コタツの真ん中に置かれたみかんの山から一つ手にとって、僕からこう呟くのだ。


「みかんって、刺激を与えると甘くて美味しくなるらしいですよ?」